伯耆の國の御伽草子

お気楽気ままな高齢者のグダグダ噺

アオンの定吉 神村肇埜の喰寝酒寝日記(11月6日)

 今朝もアオンの定吉に起こされた。

 

 私の朝は早い。午前二時には起きる。というより起こされる。

 

 早朝というか、深夜の二時になると、毎日私の部屋のドアに体当たりしてくる者がいる。その愛あたりのドンという音で私は目を覚ます。

このドンという音が誰の仕業かというと、アオンの定吉の仕業である。アオンの定吉が私の部屋のドアに体当たりをして、ドンという音で私を起こすのである。

 

 アオンの定吉は我が家で飼っている猫である。六年前の春に我が家にやって来た、六歳になるロシアンブルーである。オス猫であるが、子猫の時に虚勢手術をしたので、アオンの定吉は、オネエの定吉でもある。

 

 定吉は毎朝、午前二時前になると、「アォン」という声で朝ごはんの催促を始める。私の部屋の前で「アォン、アォン」と催促をしている。私はその声には気がついてはいるが、知らん顔を決め込んで寝ている。定吉は「アォン」と鳴いても私が起きて来ないと、私の部屋のドアに体当たりを始める。

 私の部屋は、玄関の横にあり、ドアの前に玄関の飾り棚あるので、その飾り棚に登って、そこからドアに体当たりのジャンプをするのである。であるからかなり大きな音がする。

 流石にその体当たりの頃になると私も仕方なしに起きることになる。

し かしなんせ午前二時過ぎである。午前二時というと、酒飲みの方はよくわかると思うがまだ昨晩の酒が残っている。であるから喉はカラカラだし、その上すこぶる気分が悪い。

 ドアを開けると定吉は待っている。定吉は今度は

「アグゥ」

と不機嫌そうな声を出しながら私を見上げている。その顔は

「おいお前、何しとんじゃい。エサ入れが空になっているのが、わからんのかい」

と言っているように見える。

「おはよう、定吉は早いねー」

と言いながら、定吉のエサをエサ入れにいれてやる。

定吉は

「ありがとう」

の一言もなくエサ入れに頭を突っ込んで朝食の時間となる。

 定吉の朝食が始まると、私は台所に行き、酔覚ましのオレンジジュースを冷蔵庫から出して飲む。なぜオレンジジュースかというと、酔覚ましには果糖がいいと聞いたことがあったので、私はオレンジジュースを冷蔵庫に欠かしたことがない。

 オレンジジュースを飲んでからトイレに行き、そしてまた定吉のエサ入れのところに戻ってくると、もう定吉の姿は無い。

 朝食が終わった定吉がそれから朝まで何処で寝ているのか私は知らない。なぜなら私もまた眠りにつくからである。

 しかし一度起きたあともう一度ベッドに入るのではあるが、ぐっすりと眠ることはない。今日の仕事のことなど、いろいろなことが頭に浮かんできてその度に目が覚める。その状態でまんじりとしないで、朝の六時までベッドの中で過ごす。

 

 朝六時にカミさんが起きてくるのと同時に私もベッドからぬけ出だしてまた台所に向かう。珈琲を淹れて、食パンをトーストして、カミさんと私の朝食が始まる頃になると、また定吉がどこからともなく出てきて、

「グゥ」

と声にもならない鳴き声でカミさんの足に絡みつきながら、朝二度目の朝食の催促が始まる。

「定吉、もうご飯食べたでしょ。朝ごはん食べたの忘れたんかい。ボケたんと違うか、定吉」

と私が定吉に向かって言うと

「ボケとはなんじゃい、お前の方がボケとんじゃ、このボケ」

と言った目で私を睨み返してくる。

 

 こうして私の一日が始まる。