読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

伯耆の國の御伽草子

お気楽気ままな高齢者のグダグダ噺

猩々の乱 そのさん

 僕はなんだか二匹の狸親父とクソ婆にまんまとうまく乗せられたような感じで『全国大会』を鳥取県で引き受けざる得ない状況に追い込まれてしまった。しかし簡単に引き受けるのも何なので

「わかりました。しかし会場が確保出来るか不安もあります。少しお時間を頂ければ心当たりの会場の確認を取ってみたいと思います。大変かとは思いますが、来週もう一度ご足労いただけませんでしょうか?その時までに会場の目星を付けておきます。来週もう一度来て頂き、会場を下見して頂いて、よければお引き受けしたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「わかりした。神村さんさえ良ければ、来週もう一度どころか、毎週でも伺わせていただきますよ。なあ、磯村さん」

「ああ、神村さん、私も家内も協力は惜しみません。岡山県山口県の支部長にも協力するように話して起きます。いやあ、良かった、安心した」

何を言っているんだ、この狸が。毎週来られたら、こっちが迷惑だと思ったが、

「では、すみませんが、来週またお願いします」

「神村さん、ありがとうございます」

そう言うと、二匹の狸とクソ婆はそそくさと帰って行った。

 

 三人が帰ってしまうと僕は「ふぅ」と溜息をひとつついて、また元の席に座ると、大林さんが持ってきた安物の土産を手に持つと、なんだかこんな饅頭ひとつで大変なことを引き受けてしまったのではないかと後悔が頭をよぎった。

 しかしまた、もしかしたら何となく何かが、この面倒くさい『猩々協会』とバイバイ出来る、いいきっかけに鳴るのでは無いかという思いもあった。僕はその何となく何かがって、何かと言うと、何かで、具体的に思いついている何かがあるわけでは無かったが……

 

 ここでちょっと猩々シンポジウムについて話しておこう。

 

 前にもお話したが『全国猩々音頭保存協会』、略して『猩々協会』は全国各県に県支部を配置して、それぞれの県で活動をしている。ある県では、県内各地の盆踊り大会に参加したり、また別の県では高齢者の施設を訪問して猩々音頭を披露したりしているのである。

 僕が県支部長を務める鳥取県支部では、猩々キャンプと呼ばれる小さなシンポジュウムを毎年開催している。シンポジウムと言っても、特に偉い学者の方々が参加しているような立派なシンポジウムではなく、鳥取県内のホテル等の施設で県内の会員同士の交流を目的にして、一泊二日の集会のことをシンポジウムと言っているのである。

 先にも言ったが、猩々シンポジウムは猩々音頭に限らず県内の伝統芸能の保存を訴える小さなシンポジュウムにもなっている。

 というのも、猩々シンポジウムは会員のみならず、県内の関係先から会員意外の参加を募って、毎年百人規模の会となっている。当然、百人規模の集会を開催するためには、多額の費用が必要になるのであるが、もともと鳥取県支部は経済的に余裕の無い支部であり、本来ならばそのような規模の集会を開催する経済的な力を持っていない。その大きな要因としては、会員の参加を促すために会員の参加費を考えられないような格安の参加費に抑えているためである。そのためシンポジウムを開催するために必要な経費の一部を、と言うか大部分を関係先からの助成金に頼っているのが実情なのである。当然、ただの交流会では助成は受けられない。そこで伝統芸能保存のためのシンポジュウムとして、様々な講演会や勉強会をプログラムの中に取り入れて、伝統芸能の保存に対しての会員の意識の向上を図るという目的を持った意義のある会であるとして助成を受けて開催しているのである。

 そのような会を毎年開催しているので、『全国大会』を鳥取県でと言われても、僕は特段大きな不安があるわけでは無かった。だってすでに下地があるのだから。

 

 このような猩々シンポジウムを開催していることは、当然『猩々協会』の中国地方本部の大林さんを通じて、協会本部にも報告しており、大林さんはこの猩々シンポジウムに目をつけたのだと思う。

 猩々シンポジウムは、先にもお話したとおり、百人規模の会となっている。大林さんは何もしないでも百人は集まると考えているに違いない。今までの『全国大会』は全国から参加者を募っても百人を集めるのがやっとだと聞いている。鳥取県の百人と全国からの参加者を考えると、少なくとも百五十人、いや多ければ二百人規模の会になるに違いない。二百人規模の会となれば協会本部の理事をしている大林さんの顔も立つと言うものだ。きっとそれを狙っているに違いない。

 僕だって馬鹿じゃない。大林さんが鳥取県の猩々シンポジウムにおんぶにだっこしようと狙っていることくらい百も承知だ。おそらく口では協力すると言っているが、大林さんも磯野さんも何もしないに決まっている。そうなのだ、あの二匹の狸は何もしないで、手柄だけを得ようと考えているに違いないのだ。そうはさせるか。そう簡単に手柄を横取りされてなるものか。ようし、今に見ていろ、あの狸親父に一泡もふた泡もふかせてやる。向こうが狸ならば、僕は何になるのか?狸といえば狐と世の中の相場は決まっているように思うが、僕は狐にはなりたくない。

 そうだ、僕は猩々になってやろう。向こうが狸ならば、僕は伝説の妖怪、猩々なのだ。ところで猩々ってどんな格好をしているんだろうか?僕は『猩々協会』に入っているが、猩々については何も知らなかった。まあいいか。

 そんなことをぼんやりと考えていたが、

「そうだ、明日は会場を何とかしないといけない」と思いスマホを手に取った。僕はすでに目星を付けているホテルがあったのだ。大林さんから話が出た時から考えていた自宅からそう遠くないホテルの営業に電話をかけて、明日イベントの企画があるのでその打合せをしたいとアポを取った。

 

 僕は鳥取県の西部で暮らしているのである。鳥取県は日本一人口の少ない県として知られているが、その分素晴らしい自然がたくさんある。その代表として大山がある。大山は秋の紅葉、冬のスキー、夏の登山と四季を通じて多くの観光客で賑わっており、鳥取県を代表する観光地である。

 その大山にリゾートホテルの『大山エクセレントホテル』がある。『大山エクセレント』ホテルなら『全国大会』の会場としては問題が無いだろう。宿泊収容人数も五百人くらいはある。大きな宴会場も持っているから、二百人程度の講演会なら問題なく出来る。それになんといっても『大山エクセレントホテル』は大山の高級ホテルとしての知名度も高い。プライドの高い教会本部の理事を納得させるには十分だ。

 ただ問題はその高級ホテルが故の料金の高さだ。おそらく二百人規模の会ともなれば、結構な金額になると思われた。

 

                       続く